ごあいさつ

1990年、私は東京蒲田に精神科クリニックを開業しました。そのとき待合室に飾る絵を求めたのが、もともとはコレクションの始まりでした。もっともそのときはクラーベタピエス等のリトグラフが中心でした。同時に画廊探訪の面白さにめざめた私は、セカンダリーのギャラリーで、草間彌生李禹煥の小品をかなりの数を集めるようになりました。1997年からは、会田誠草間彌生の新作展に出かけて、購入するようになり、コレクションが本格化しました。以来、奈良美智、村上隆、山口晃、鴻池朋子、加藤泉、宮永愛子、名和晃平、千葉正也、Chim↑Pom等日本の代表的な作家の代表的な作品をコレクションすることができるようになりました。

コレクションを作ることができるかどうかは、目と運とお金にかかっていると思います。

目については、これまで20回以上のコレクション展が開かれているので先ず先ずなのではないかと自負しています。

運については、それこそ時が味方してくれるかどうかです。コレクションを始める時期が日本の現代アートにとっては、とても微妙な時期だったことは間違いありません。お金持ちがバブル崩壊でアートに興味を失い、アートの世界では多くの権威が陰をひそめ、日本という国はかつての勢いがなくなってきた時代。その時に、日本の現代アートはサブカルチャーを基盤に独特の進化を遂げました。
それはある意味、新しい時代の東洋的成熟といっていいのかもしれません。
私のコレクションは、この時期と全く軌を一にしているので、この時代のアートが評価されることになれば、運があったということになります。

お金については、余り金持ちとは言えない自分は語る資格がありませんが、『アートのお値段』*1に見られる拝金主義や最近の日本で言われる投資としてのアートには興味がないとだけは言っておきましょう。

いずれにせよ、アートは人類のもつ過剰さの美しくも激しい結晶です。
高橋龍太郎コレクションでその一端でも堪能していただければ幸いに存じます。

*1『アートのお値段』 ドキュメンタリー映画(アメリカ) 2018年 監督:ナサエル・カーン

高橋 龍太郎


高橋龍太郎コレクションについて

精神科医、高橋龍太郎が1997年から本格的に始めた現代美術コレクション。
草間彌生、合田佐和子を出発点として、日本の現代美術にフォーカスし、特に1990年代以降の作家の作品は質量ともに抜きん出ている。奈良美智、村上隆、ヤノベケンジ、鴻池朋子、会田誠、山口晃、名和晃平、加藤泉、宮永愛子、池田学といった今や国際的に活躍する作家たちの初期作品、代表作品を多く有し、国内外の展覧会への作品貸し出しは毎年100点を超える。
2008年以降、国内外22の公立・私立美術館でコレクション展が開催されてきた。「ネオテニー・ジャパン 高橋コレクション」(鹿児島県霧島アートの森札幌芸術の森上野の森美術館ほか)、「高橋コレクション展−マインドフルネス!」(名古屋市美術館ほか)、「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」(東京オペラシティアートギャラリー)「Cosmos /intime 内なる宇宙 高橋コレクション」(パリ日本文化会館)など、各地で現代美術の優れた作家、作品に触れる機会を提供し続けている。
2020年、現代アートの振興、普及への多大な貢献を認められ、令和2年度文化庁長官表彰を受賞。
コロナ禍にオープンした寺田倉庫のWHAT MUSEUMにおける「INSIDE THE COLLECTOR’S VAULT, Vol.1−解き放たれたコレクション展」では、高橋龍太郎コレクションの原点である合田佐和子、草間彌生、会田誠の作品と、近藤亜樹、今津景の大作、そして鈴木ヒラク梅沢和木、毛利悠子、川内理香子、水戸部七絵、DIEGO、BIENら新しい世代、傾向の作品とを展示した。コレクションは現在進行形で続いており、新たな作家の発掘や作品の再評価を精力的に行っている。


高橋龍太郎(たかはし・りゅうたろう)
精神科医、現代アートコレクター。
1946年山形県に生まれ、小学校から高校卒業までを名古屋で過ごす。
東邦大学医学部を卒業後、慶應義塾大学精神神経科入局。国際協力事業団(現・国際協力機構)の医療専門家としてのペルー派遣などを経て、1990年東京・蒲田にタカハシクリニックを開設、院長となる。医療法人こころの会理事長。デイ・ケア、訪問介護を中心に地域精神医療に取り組むとともに、心理相談、ビジネスマンのメンタルヘルス・ケアにも力を入れている。(タカハシクリニックHP
 
2020年、現代アートの振興、普及への多大な貢献を認められ、令和2年度文化庁長官表彰を受賞。
著書『現代美術コレクター』(講談社現代新書)『恋愛の作法』(ポプラ社) 他多数。