作品に使われる色彩はきわめて限定的で、キミドリが創造を表す色彩であるように、ピンクは現実、赤は時間、白は調和、黒は可能性を表す色彩として、大谷作品に特徴的に登場するもの、室内、ソファー、シャボン玉、黒豹、花やうつわという具体的なものや、対話、無意識、ピース、希望というイメージに類するもの、ピクニック、夜、家族、風景など事象的なものへと幅広く展開して行きます。
キャラクターのように描かれる「ウサギねずみ」は作者の象徴であり、ウサギとねずみというそれぞれ相反する性格は作者の持つ二面性を表し、矛盾する自己を相対化して描いていますが、「キミドリの部屋」のような抽象的な傾向の強い作品でさえ、作家自身の存在を感じさせる具体的なイメージを想い描くことができます。
こうした作品世界は物語を紡ぐというより、思索を重ねるという方がふさわしく、絵の具を薄く重ね合わせながら、9.11から想起された「最初の家族」に見られるように、その時々の思いを塗りこめているのかもしれません。
「フェイバリット!」と作家自ら題された今展は全て高橋コレクションによるものですが、まさに作家自身にとってのお気に入りでもあり、大谷作品の本質を展観するものとしてご高覧いただければさいわいです。
GALLERY MoMo 杉田鐡男